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東京地方裁判所 平成元年(行ウ)119号 判決 1990年7月11日

東京都千代田区九段北一丁目九番

原告

オールシステム株式会社

右代表者代表取締役

吉田武明

右訴訟代理人弁護士

石黒康

東京都千代田区九段南一丁目一番一五号

被告

麹町税務署長

佐藤清和

右指定代理人

梅津和宏

篠崎哲夫

遠藤家弘

白石信明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が昭和六三年六月三〇日付けでした原告の昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認を取り消す旨の処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、昭和五二年一二月から法人税につき青色申告の承認を受けた青色申告法人であった。

2  ところが、原告は、昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年度」という。)、昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年度」という。)及び昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年度」という。)の法人税の各確定申告書を各事業年度終了の日の翌日から二月以内である各翌年二月末日の提出期限までに提出せず、昭和五八年度の確定申告書は昭和五九年八月七日、昭和五九年度の確定申告書は昭和六〇年四月二四日、昭和六〇年度の確定申告書は昭和六一年六月一〇日になってからそれぞれ提出し、更に、昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年度」という。)及び昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年度」という。)の法人税の各確定申告書を提出期限までに提出せず、以後も現在に至るまでこれを提出していない。なお、原告は昭和五八年度ないし昭和六二年度分の法人税の各確定申告書につき、法人税法七五条二項に規定する提出期限の延長の申請もしていない。

3  そこで、被告は、昭和六二年度の法人税確定申告書がその提出期限までに提出されていないことを理由として、法人税法一二七条一項四号に基づき、昭和六三年六月三〇日付けで、原告の法人税の青色申告の承認について、昭和六二年以後これを取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をし、右処分をその通知書により原告に通知した。

二  争点

本件の争点は、本件処分に原告が主張する次のような違法事由があるかどうかである。

1  本件処分には、申告期間を徒過したのみでは青色申告承認を取り消すことができないのに、この理由のみで青色申告承認を取り消したという違法がある。

2  本件処分には、理由附記不備の違法がある。

3  本件処分には、裁量権の逸脱、濫用の違法がある。

第三争点に対する判断

一  本件処分がその理由を欠くとの主張について

1  原告は、原告が単に確定申告書をその提出期限までに提出しなかっただけで、帳簿類の備付け等を行わなかったり、帳簿類に取引を隠ぺいし又は仮装して記載した等の事実のない本件では、被告は青色申告の承認を取り消すことはできないと主張する。

2  しかしながら、法人税法一二七条一項は、青色申告の承認を受けた内国法人につき次の各号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる事業年度までさかのぼって、その承認を取り消すことができると規定しており、同項四号には、確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことという事実が掲げられているのであるから、法人税法が確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことを青色申告の承認の取消事由としていることは明白である。そうすると、原告が昭和六二年度の法人税確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことは前記のとおりであるから、これを理由として被告が原告の法人税の青色申告の承認を取り消すことができることは明らかである。

二  本件処分に理由附記不備の違法があるとの主張について

1  原告は、青色申告の承認取消処分の通知書には、その理由として、少なくとも取消しを正当づける具体的事実を記載すべきであるが、本件処分の通知書には単に期限徒過の事実が記載されているだけで具体的な取消しの理由の記載がなく、したがって、本件処分は法人税法一二七条二項に違反し違法であると主張する。

2  確かに、法人税法一二七条二項は、青色申告の承認取消処分の通知書には、その取消しの処分の基因となった事実が同条一項各号のいずれに該当するかを附記しなければならないと規定しており、右規定の趣旨は、青色申告の承認取消しに関する処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保して、その恣意を抑制するとともに、取消しの理由を相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあるものと考えられるから、右処分の通知書には、原則として、当該取消処分の基因となった事実を、相手方が知り得る程度に具体的に特定して摘示しなければならないものと解すべきである。ところで、本件処分は、前記のとおり、法人税法一二七条一項四号の確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことをその理由とするものである。そうすると、本件処分の通知書(甲第五号証)が、本件取消処分の基因となった事実として、昭和六二年度の法人税確定申告書がその提出期限までに提出されていないことを明示したうえで、当該事実が法人税法一二七条一項四号に該当する旨を記載していることは明らかであるから、この記載は、本件処分の基因となった事実を原告が知り得る程度に具体的に特定して摘示するという点で、欠けるところはないものというべきである。したがって、原告の主張は理由がない。

三  本件処分に裁量権の逸脱、濫用があるとの主張について

1  原告は、昭和六一年度及び昭和六二年度の各確定申告書の提出に関し、昭和六二年五月一一日及び一二日に警察の捜索を受けて経理関係帳簿を押収されてしまったため、確定申告書を作成することができなくなっており、そのような事情については、被告窓口担当者にもこれを説明していたから、被告は、右確定申告書の期限内の提出が不可能であることを事実上知っていたのに、原告に告知聴聞の機会を与えないまま、本件処分をしたものであるから、この点で裁量権の逸脱、濫用があると主張する。

2  しかしながら、関係証拠(甲第一号証ないし第三号証、乙第一号証ないし第四号証、証人吉田順子の証言、原告代表者(吉田武明)尋問の結果)によれば、<1>原告の昭和六一年度分の確定申告書がその期限である昭和六二年二月末日までに提出されなかったのは、単に原告の事務処理上の遅れによるものであったこと、<2>原告の代表取締役である吉田武明が相続問題に関連して実弟から詐欺等の罪により告訴を受け、昭和六二年五月一一日に逮捕され、同事件に関して翌一二日原告の事務所等も捜索を受けたが、原告は、正式な経理関係帳簿ではなく銀行預金通帳を基礎に経理処理をしていたため、右捜索においても経理関係帳簿は発見されず、右預金通帳が差し押さえられたに止まること、<3>原告代表者吉田武明は、同月末ごろ、被告職員に電話連絡を取ったことがあったものの、右差押えがあったことは説明しておらず、その後本件処分に至るまで原告側から被告側に連絡を取って右の事情を説明したことは一切なかったこと、<4>また、差し押さえられた右預金通帳も、同年六月一日付けで原告に還付され、その他の押収物も同年七月一七日までには総て原告に還付されていることが認められる。以上のような事実に照らすと、原告が期限内に昭和六一年度及び昭和六二年度の各確定申告書を提出できなかったことについて原告の側にやむを得ないような事情があったものということは到底できず、しかも、前記のとおり、原告が昭和五八年度から連続して確定申告書の期限内提出を怠っていたという事情を考慮すると、被告のした本件処分に裁量権の逸脱、濫用があったとすることも困難なものというべきである。

3  なお、原告は、青色申告の承認取消手続においては処分の相手方に告知聴聞の機会を与えることが憲法上要求されているから、被告が原告に対し本件処分に際して告知聴聞の機会を与えなかったことが本件処分の違法事由となるとも主張するかのようである。しかしながら、法人税の青色申告の承認取消手続において、当該処分の相手方に告知聴聞の機会を与えるべき旨を定めた法令の規定はなく、また、憲法がそれを要求しているということもできないから、本件処分に際して原告に告知聴聞の機会を与えなかったからといって本件処分が違法となるものではない。

第四結論

よって、本件処分について原告が主張するような違法事由は認められないから、本件処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 市村陽典 裁判官 小林昭彦)

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